2020年3月10日
皆様、KVC Tokyo 英語塾 塾長 藤野 健です。
新型肺炎の感染が拡大を続けており、学校が休みになったりテレワークでご自宅に籠もってられる方々も多いかと思います。この様な時に英語の勉強を積んで将来に目を向けるのも良いのではと思います。
さて、ハンバーガーとアイスクリームの話題かと早合点した方も居られるやもしれません。食べ物の話ではなく、英語圏の姓にMac やMc が付くものがありますが、これは一体何を表しているのかが今回のコラムテーマです。
街中で見掛けるハンバーガー店も大々的にそれが冠された名前を TV でも時々連呼していますし、コンピュータやスマホで鼻息荒いリンゴマークの会社にも該当するブランドが存在します。古くは戦後、コーンパイプを咥えて厚木飛行場に降り立ったサングラスの米軍人、荒野の七人に出演した渋いアクション俳優 (塾長は大ファンでした!) にも、また60年代に世界的なブームを巻き起こした英国発4人組のポップスグループにも該当者がいます。日本人には世界 (=英語話者圏のことを英語話者達は「世界 world 」と言うらしい) の一大勢力の様に見えますが実勢はどうなのでしょうか?
実のところ、Mac 或いは Mc はゲール語 (アイルランド、スコットランド、マン島のケルト語、Qケルト語)で、〜の息子を意味します。元々は父親の、姓ではない名前、詰まりは first name の方に、Mac をつけて息子の姓にしていましたが、いつしかそれが固定化された苗字となったものです。例えばアーサー Arthur と言う名の男に息子が生まれると、息子の姓が MacArthurとなります。その息子の名前 が 例えば Douglas MacArthur 即ちアーサーの息子ダグラスであれば、次の息子の姓が MacDouglas という具合です。これでは当人が何の一族の係累であるのかが分かりません。単に父親の名が分かるだけです。対外的には、当人がアイルランド or スコットランド系ケルト人の血を引くことだけははっきりしますが。
古ノルド語 (北ゲルマン語 =スカンジナビア語の共通祖語) が古来より殆ど変化もせずに話されているアイスランドでは、現在でもこの様式で子供が命名されます。詰まりはいわゆる日本人のような苗字の概念がありません。〜の息子、〜の娘が形式的に姓に該当します。
日本人に顔が似ていると指摘されるアイスランド人歌手のビョークの名前は ビョーク・グドゥムンズドッティル (Bjork Gudmundsdottirですが、<父親の first name の Gudmund +属格(〜の)s + dottir 娘>が姓に相当します。詰まりはGudmund の娘ビョーク、です。ちょっと違いますが更級日記の作者、菅原孝標女 すがわらのたかすえのむすめ を連想してしまいました。Gudmund さんに息子が生まれれば、息子の<姓もどき>は Gudmundson となります。ビョークに仮に兄弟がいれば男女の子供の間で姓が異なる訳です。通常は父親の名前から姓を付けますが、母親の名やミドルネームを利用する場合もあるとのことです。
人口が少ない狭い社会(アイスランドは全人口35万人程度)ではこの様な命名法でも混乱は起きませんが、人口が増えると血統、家系が明確に辿りにくくなる事に加え、似たような<氏名>の者が重なり不都合でしょう。言うなればムラの命名法ですね。日本も明治に入るまで武士などを除いて苗字を持たず、例えば八丁堀の三吉、馬喰町の伝兵衛の様に、適当な符号 (屋号) を添えて呼び合っていました。これでは対外的に血筋も不明ですが、逆に言えばそれが問題にされない階層であったと言えます。まぁ、てめぇみてぇな馬のホネは引っ込んでいやがれ、ですね。
苗字が変わらなければ家系が明確に辿れます。詰まり、家系を辿られることが有用である上層の階級ほど 「まともな」 姓を保持します。仮りに姓に息子、娘などに相当する語が入っていれば、現在は固定された姓を親から引き継いでいるにしても、嘗ては親の名前から「その場しのぎの苗字」を作っていた家系であることが分かりますので、<そこらの只の人> だと見なされもします。デンマークの童話作家アンデルセン Andersen は <Ander の息子>が起源の名字ですから、上流の出ではないと一時は鼻であしらわれたりもしたようです。童話と違って現実世界は世知辛いですね。
〜の息子、〜の娘の命名法はケルト系以外にも古ノルド語圏、即ち、北ゲルマン語 (アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク) で一般的です。アイスランド以外は既に固定された姓になっています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/マック_(ゲール語)
ここを見ると、英国の姓の"O'Sullivan"や"O'Hana の Oは Ui (孫息子) の変化したものとの記述があります。Sullivan と言う祖父の名前に対して、その息子は MacSullivan 、孫息子は O'Sullivan としたのかと思いますが、それに関しての記述はありません。おじいさんがムラの有力者でそれを誇りに思って伝えたのでしょうか。
マーガレット・ミッチェルの長編小説 『風と共に去りぬ』 に登場する架空の人物スカーレット・オハラは、1844 或いは1845年、ジョージア州タラの自家のプランテーションで出生、父方はアイルランド系カトリックの家系、母方はフランス人であるが、有名な貴族サバンナ家の子孫、ロビヤール家の出である、とありますのでアイルランドの血が入っているとの設定です。塾長は子供の時はオハラの響きから日本人に関係があるのかなどど思っていましたが全然違いますね。余談ですが、塾長が高校の時にお世話になった体育の先生はオバラ先生、数学はオオハラ先生でした・・・。ジョージア州には 1733 年に移民が入りますが父方はこれ絡みの設定でしょう。ジョージア州の西方にフランスの植民地だったルイジアナがありますので、母方はそちら由来かもと想像します。
苗字1つ取っても奥が深くて面白いですね。ヨーロッパの貴族の姓の命名法については後日機会があればまた触れたいと思います。
自宅待機の方々も多いと考え、今回は娯楽的要素を強めてみました。楽しみがてら知識を得るのも悪くはなさそうです。
途中6回分の入試英語の話を差し挟みましたが、これまで全19回に亘り、言語としての英語の背景を探るコラムを書いて来ました。英語史、英国史について興味を抱かれた方は、専門の書籍も数多世に出ていますのでそれらを紐解いて更に勉学を進めて戴ければと思います。次回からは英語の個々の表現法に話を戻しますね。
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