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英語の綴りと発音の乖離 |
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2019年10月10日 皆様、KVC Tokyo 英語塾 塾長 藤野 健です。 構造的な英語の曖昧性、換言すれば英語の持つ非論理的側面について触れましたが、今回は、英語の発音にまつわる問題点を採り上げます。 |
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英語学習上の難点としては綴りと発音の乖離が挙げられます。 単語を字面のままに読んで発音すれば楽ですが、英語では母音或いは母音の塊、或いは子音、子音の塊に対して単語毎に異なる発音が割り当てられており、ある程度の発音の法則性は見られるものの、基本的に個々の単語の綴りとその発音をセットにして暗記する他はありません。面倒な言語ですね。 綴りと発音との齟齬が発生する原因の1つは、文字が流布しない様な<野蛮な>層が使用する言語ほど方言化が進行し、文字で表記された単語と発音が乖離、多種の発音が派生します。その<野蛮人>の一派の内、主導権を握った者が、自分の言葉が本当の言葉だと主張し始める訳です。そこに<本来>の単語を後から割り当てれば、文字の綴りと実際の発音に大きな隔たりが生じているとの按配です。それら一派を束ねた主導者が、「国語」の改革に乗り出し、方言の統制 (北と南で言葉が通じなければ国に値しない)、発音と綴りの対応 (単語や文章の綴り方の決まりごとですが正書法と言う)を定めれば、少なくとも見栄えよろしく<国語>として体を為すに至ります。まぁ、中央集権化に伴う締め付けの1つでもありますね。何せ言葉が正しく通じなければ指揮命令が通達も出来ないのですから。皆が有り難がって自ら学習してくれる英語話者の国家は自国文化の優位性を実に上手く打ち立てたなぁとこの意味で感心させられます。流行っている神社の姿にも似ていますね。相手が感謝の言葉を口にしながらお賽銭まで投げ込んでくれるのです。尤も現在英語を公用語として現地語に加えて採択しているのは昔に後進国と呼ばれた国々になぜか留まっています。 音素的正書法https://en.wikipedia.org/wiki/Phonemic_orthographyIdeal phonemic orthographyIn an ideal phonemic orthography, there would be a complete one-to-onecorrespondence (bijection) between the graphemes (letters) and the phonemes ofthe language, and each phoneme would invariably be represented by itscorresponding grapheme. So the spelling of a word would unambiguously andtransparently indicate its pronunciation, and conversely, a speaker knowing thepronunciation of a word would be able to infer its spelling without any doubt. Thatideal situation is rare but exists in a few languages.理想的な音素的正書法に於いては、言葉の綴りと発音の間に完全な1対1の対応が成立する。綴りはそれに対応する音素を揺るぎなく表すのだ。それで、1つの単語の綴りは曖昧さなく透明にその発音を示し、逆に、単語の発音を知っている話し手はその綴りを疑いなく推測出来るのである。この理想的な状況は稀ではあるが、2,3の言語には存在する。 ほぼ理想的な音素的正書法の言語の例としてウクライナ語が挙げられています。塾長はスラブ語系は形無しで早期に(3日?)挫折して学習を放棄してしまったのですが、子音部分を含めて文字通り、「文字通り」に発音でき綴れるのであれば最高ですね。日本語のひらがなとカタカナ表記に於いても発音と綴りはほぼ1対1に対応しています。 |
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実は英語も元々は綴りの通りに発音されていたのですが、西暦1400〜1700年に掛けてGreat Vowel Shift GVS 大母音推移 と呼称される母音発音の大きな変化が発生し、綴りはそのままでしたので発音との間に乖離が起きました。一説では、ペストの結果、北部イングランドの者が大量に東南部に移動してロンドンの発音を変えた、或いはフランス語を話す上流階級の特権意識また逆にフランスに対する敵愾心が、フランス語由来の単語 (1万語に及ぶ) の発音を過剰修正 hypercorrection した影響だろうとします。変化した発音に合わせて綴りを直せば良かったのですが、既に活版印刷も普及し始め、そのまま利用し続けた訳ですね。その綴りと発音の組み合わせをセットにして英語圏の子供達は学習を進める訳ですが、日本の子供達が、漢字とその読みを勉強して一個一個覚えていくのに類似していて面白く感じます。まぁ<つべこべ言わずに>覚えればそれまでですが。 GVS の結果、綴りと読み、学習、それとGVS 以前に記録された英語の理解、のいずれもに支障を来すようになりました。この様な面への配慮なく GVS が進行したことは、綴られた文字には関与しないクラスの、「強烈な」方言を使う一派が流入或いは台頭し勢力を握ったのではないかと率直なところ塾長は感じます。昔の事に想いを寄せたりしない、知ったことではない、「今」を生きる者達、例えば商売人の流入・台頭を塾長は考えます。子供の時に話していたり耳にしていた発音が老人に達する頃には変化してしまっているスピードですから、近頃日本語が乱れている、けしからん、どころではありませんね。明治初期と現在 (150年の隔たりがあります) の日本語の、語彙ではなく言葉自体の発音が大きく違っているレベルですから、一体何が起きたのかと驚くばかりでしょう。 |
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オーストラリア人の英語の発音で、today をトゥデイではなくトゥダイと発音するなどと良く耳にしますが、これも特定の地域、時代の英語方言の話者が流入し(ロンドンの労働者階級で話されるコクニー訛り、映画 『マイ・フェア・レディ』 でヘプバーンが当初喋る英語)、その発音が主導権を握った結果なのでしょう。塾長は米南部のニューオリンズに学会で出かけたことがありますが、ニューヨークで耳にする様な強い r の巻き舌音が幾らかマイルドになり、寧ろ聞きやすいと感じました。フランスの植民地だった(財政難のフランスがのちに米国に売却した) 影響もあるのかもしれませんね。挨拶の Hello! もヘロゥではなくハローと軽やかに聞こえました。 フランス語では、単語のどの部分は読まない、と言う決まりが明確で、表記上の<旧仮名遣い>の綴りに対しても、どこは読まないとの明確性があり、その決まりを知った上で文章を読めば良いだけで、基本は綴りのままに読んで発音すればOKです。これは日本語の仮名も同じですね。英語に見られる様に、文字と読みが乖離していて同じ表音文字であるアルファベットの塊が別の何通りにも発音される言語は西欧語には寧ろ少ないかもしれません。初学者には壁となります。言葉の発音を知っていても綴れないのですから。 本来、綴りと発音が揺るぎないセットとして揃っているのが<まとも>な言語ではと塾長は考えます。基地の街横須賀で育った塾長の母親から直接聞いたのですが、米国の水兵が給料などを貰うときに自分の名前が書けず、受領のサイン代わりに丸印を付けるシーンを何度も目撃したとのことです。米国人自体も発音と綴りの乖離が原因で文盲率が高かった(現況は知りませんが)のかと思います。日本人で自分の名前が書けない者は塾長は見た事がありませんが、子供の時に何らかの事情で学校に通えず、漢字の読み書きが出来ない者も僅かに存在し、配偶者にも自分が文字を読めないことを隠し通し、精神的にも苦しんでいると新聞記事で読んだことがあります。表音文字のアルファベットの綴りと発音が乖離した英語圏、また仮名表記と発音が一致していても漢字を音訓覚えねばならない日本の両者に於いては、どうやら最低でも寺子屋並の教育システムが必須の様ですね。 |
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日本国民を構成する和人以外の別の民族であるアイヌ民族はもともと文字を持たず、民話や神話などは全て代々口伝(くでん)で伝えてきました。大変残念ながら北海道のアイヌ語母語話者はほぼ消滅し千島及び樺太のアイヌ方言は絶滅しました。それ以前に東北地方のアイヌ語話者は18世紀には途絶えています。塾長は大学時代に日高の平取(びらとり)の民宿に泊まったことがあるのですがそこはKさんと言うアイヌのご夫婦が営む宿でした。生け捕りにしたヒグマが檻に入れられ玄関近くに展示されていたことが鮮明に思い出されます。地区のリーダー格らしきご主人は標準語を話しましたが、母親がアイヌ語が話せると言うので東大の学生が習うために通いに来ており塾長も当人に会いましたが現在何をしているのかと思います。話が脱線しましたが、現在、アイヌ語をどうやって表記しようか様々な試みが為されている様ですね。実はヨーロッパの多くの国でもオリジナルの文字を持たず、アルファベット文字を導入したりキリル文字を導入したところが大半です。和人も文字を持ちませんでしたが、中国より漢字を導入し万葉仮名として転用し、後に仮名文字の発明(と言うより実用新案?)へと繋りました。GVSの様な事態が起きない限り、当初に導入された表記法と発音が大きく離れる例は寧ろ少ないのではないかと思います。表記法からの縛りが発音の崩れを防止する効果もあるでしょう。 |
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