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ケルト人とウェールズ語 |
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2020年3月5日 皆様、KVC Tokyo 英語塾 塾長 藤野 健です。 ノルマン・コンクエストの項で、大陸側のブルターニュ半島へとブリテン島からウェールズ人が植民した (ブルトン人と呼称) とチラと触れました。これに絡めてお話ししましょう。 ローマ人がブリテン島に拠点を構える(1〜5世紀)以前には、先にヨーロッパ大陸から渡ってきていたケルト系民族がブリテン島、アイルランド島及び周辺の島嶼に居住していました。但し、紀元前3000〜2000年にストーンヘンジを作ったのがケルト系民族であるかは不明です。ケルト人は先住民であるからと言って文化に乏しい原始民族であったと言う事は無く、青銅器の製造技術や鉄器の武器も持っていましたし、独特の宗教(ドルイド教)も信仰していました。 それがローマ撤退後に、ゲルマン系がブリテン島に、寄せる波の様に何度も侵攻を開始して以降(基本は海賊形態の植民です)、ケルト系民族は次第に辺境の地−ヨーロッパ大陸からは遠い、言わば裏日本ならぬ裏ブリテンに追いやられて行ったのです。尤も、ローマ人からすれば、北海に面したフランス北部、ゲルマン系民族が居住する北ヨーロッパやスカンジナビア自体が辺境そのものであったのですが。ブリテン島のケルト人はほぼ駆逐或いはアングロサクソン人人(ゲルマン系)に吸収されましたが、ウェールズのケルト人は抵抗烈しく、結局最後まで彼らを支配下に置くことが出来ませんでした。 その様な次第で、現在でもウェールズにはケルト系住民のウェールズ人が生活し、ケルト語の一種ウェールズ語を話す者がまだ相当数居ます。 ブリテン島の南西端にコーンウォール州が位置していますが、この場所もケルト系住民の場所でした。残念なことに、ウェールズ語とも近い関係にあるコーンウォール語の最後の native speaker は 1914 年に亡くなりました。 |
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他方、アイルランド島のアイルランド共和国側の住民もほぼ純粋なケルト人の子孫と考えて間違いないと思いますが、こちらの方は過去150年ほどの間に英語化が著しく進み、ごく一部の地区(貧しい漁労民の生活区)にてケルト語の一派ゲール語が細々と利用されるだけとなっています。英語が話せないと経済的また社会的地位を上げる事が出来ない現実から、アイルランド人自体が学校で形だけ祖語を勉強するものの実際には利用もしない現況にあります。逆にゲール語を話すものは衒学趣味の嫌味な奴だと思われがちとのことですが、魂を完全に相手側に売り渡したようにも塾長は感じてしまいます。まぁ、文化的に優勢な言語下に組み込まれ、祖語そして固有の文化も失ってしまう例はこれ以外にも普遍的に見られることではありますが、優勢な言語が文化とセットになって入る以前に、失っては困る、他に置き換え出来ない高度な文化、或いは武力を持っていなかったから呑み込まれたのだとも言えそうです。この様な言語に拠る文化支配を言語帝国主義と呼称する者もいます。 |
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生き残っているケルト語には、ウェールズ地方と植民先のブルターニュ半島で話されるウェールズ語とブリトン語(Pケルト語と呼ぶ)、それとアイルランド及びアイルランドからの植民先であるスコットランドで話されるゲール語(Qケルト語)の2派があります。地理的には遠く離れてはいませんが、2つの言語は分離して既に数千年が経過していると考えられ、同じケルト語であっても互いの意思疎通が困難です。 ウェールズ語はまだ話者も多く、ウェールズの北方では小学校に入るまで英語を知らない子供達も居るとのことで、日本人の感覚としては同じブリテン島に全く異なる言語体系の者が相当数住んでいることが驚きですね。 ウェールズ語の文法は大変複雑に見え、他国語の話者が習得するのは難しそうに見えます。言語学的に分析はし得たにしても実際の話者となるのに道は遠い様に感じますが、これは塾長の偏見かもしれません。またケルト語から英語への借用語なども少なく、これは英語話者側はケルト語を文化的に相手にしなかったと言うことでしょう。 |
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イングランドの800年に及ぶ支配下にあり迫害されていたアイルランドのケルト系住民が、1800年代のジャガイモ飢饉で生活に困窮、逼迫し、再起を図って新大陸にこぞって移民しました。そこで成功を収めてケネディの様に大統領になった者も出現します。古くはヨーロッパ大陸に広く居を構えていましたが、他民族に呑み込まれ、或いは追い立ててられ、辺境の地の中の辺境で生き残ったケルト人が、新大陸で花開いた訳ですが、その歴史にはケルト人の底力を感じると同時に落涙を禁じ得ません。 |
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