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その他の<構文>6 |
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2025年8月20日 皆様、KVC Tokyo 英語塾 塾長 藤野 健です。 これまで、日本の文部科学省の学習要項に採りあげられている一通りの構文形式(特殊構文)について解説を加えて来ました。実は、言葉とは生き物ですので、新たな一定の勢力を持つ様式が世に広まれば、それが新たな構文形式として広く認知される筈ですし、実際、現況に於いてあまり注目されていない類いの構文形式も存在しています。これらは学校に於いて明確なカタチで学習指導を受けるものではないものの、実は日常的に頻用されるものがあり、或いは文学作品の中などにも散見されもします。学校英語としてまともに習うことが無い或いは少ないが故に、どうやって文法的に解釈すべきなのか、受験生などの頭を毎度悩まさせもすることでしょう。意味は分かるが文法的にどの様に理解すべきか判断に困る表現−破格ではないのかとの疑問を招く−も実際のところ少なくはありません。 これまで続けて来た構文ネタの1つの括りとして、このような、市井の日本人には明確にその名を知られていない<特殊の上を行く構文>−しかし一定量の英文に触れていれば必ずお目に掛かる筈の<構文>−について整理がてら触れていきましょう。尤も、文法面での解釈については研究者間で必ずしも見解の一致を見ているとは限らないものも含まれますし、その命名分類も恣意的な視点に立つものもあります。native 一般人がその用語、命名を知らず、英語学者が主だって分類命名している概念も存在します。これらの文章構造に対し、それはどの様なシーンや意味合いで使われるのかを分析・考察する類いの学術論文も多々あり、その考察や<新理論>を批判精神に乏しく丸ごと引き継いで日本の英語学者が仕事を始める展開−大学の英語の先生とはこんなことでメシ喰っているのか!−も垣間見ることも出来ます。ここで<構文>と括弧を付けているのは、実は構文そのものとは言えず、寧ろ動詞の機能に付いての分類、即ち動詞型の分類が先に立つものであるからです。・・・ざっとこの様な経緯もあり、学校英語では指導の骨幹としては明確には扱われないとも言えますが、試験(入試)に出して置いて生徒を悩ませるぐらいなら何故最初から定義を与え、簡略で構わないので教えないのかとの疑問も生じますね。まぁ、塾長のコラムをお読みのハイクラスの方々には耳に入れて置いて損なことは全くありません。その第6回目となります。 https://en.wikipedia.org/wiki/Tough_movementhttps://ja.wikipedia.org/wiki/Tough構文The grammar of English predicate complement constructions.Rosenbaum, Peter StevenMassachusetts Institute of Technology. Dept. of Modern Languages. Thesis. 1965. Ph.D.http://dspace.mit.edu/handle/1721.1/7582https://dspace.mit.edu/bitstream/handle/1721.1/16391/03190468-MIT.pdfhttps://kobegakuin.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=256&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1Tough 構文における言語間の相違 服部 亮祐 Ryosuke Hattori 神戸学院大学人文学人間文化 H & S 50 号 2022. 1 pp.21-30(全文無料で入手出来ます)中村 捷、金子 義明 『英語の主要構文-構文から見た英文法』ISBN 9784327401290 研究社 2002https://www.jstage.jst.go.jp/article/elsjp/81/0/81_KJ00006944286/_article/-char/ja/https://www.jstage.jst.go.jp/article/elsjp/81/0/81_KJ00006944286/_pdf/-char/ja"Pretty構文"再考 : to不定詞句は「余剰」か? (日本英文学会第76回大会報告)南 佑亮 (大阪大学大学院) 英文学研究 81 巻 (2005) p. 254-DOI https://doi.org/10.20759/elsjp.81.0_254_1Lasnik, Howard; Fiengo, Robert (1974). "Complement Object Deletion". Linguistic Inquiry. 5 (4): 535-571. JSTOR 4177842https://www.jstor.org/stable/4177842?seq=1*JSTOR はメール登録すると月間100本まで無料で論文のweb 閲覧が可能ですが、見るだけでダウンロードは出来ません・・・。Christopher Barnard 『日本人が知らない英文法』河出書房新社刊、2005大庭幸男 『英語構文を探求する』 開拓社 2011https://www.glossa-journal.org/article/id/6478/French missing object constructionsGabrielle Aguila-Multner, Berthold Crysmann, GLLOSA Issue: 2022 Volume 7DOI: https://doi.org/10.16995/glossa.6478 |
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Tough 構文 2Tough 構文は他言語でも見られるのか神戸学院大学人文学の服部亮祐氏は、英語類似の tough 構文に相当すものが、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、フランス語にてアンケートの結果確認されたとし、これらの言語では、他動詞の目的語に格を付与せず、これが為、それが今度は主語の位置に据えることを可能にしていると考察しています。https://kobegakuin.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=256&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1Tough 構文における言語間の相違 人間文化 H & S 50 号 2022. 1確かに、It is difficult to please him. の文では目的格(与格と言う)の him が、He is difficult to please. と、談話主題を示す主格に<さりげなく>移動していますね。元の him には本来的に格が与えられていなかったらこそ、この様な構文が許されるのだと、との見解です。*まぁ、1つの意味に於いて、各名詞の格変化のタガが緩くなったが故の tough 構文の成立とも言えそうです。フランス語Il est difficile de les satisfaire.彼らは喜ばすのが難しい。= It is difficult to satisfy them,Ils sont difficiles a satisfaire. (ここでは表示出来ませんが、a の上には accent grave アクサン・グラーヴが付きます)= They are difficult to satisfy.ここでも目的格の les (=them) が主格主語の ils (=they) に置き換わって tough 構文を形成しているのがわかります。https://www.glossa-journal.org/article/id/6478/French missing object constructions, Gabrielle Aguila-Multner, Berthold Crysmannこの論文は、仏語の目的語消失構文 French missing object constructions の内の1つとして tough construction を扱っていますが、以下の形容詞が tough 構文に利用されるとしています:absurde, admirable, adorable, affreux, agreable, aise, allechant, amer, amusant, appetissant, apre, ardu, assommant, atroce, balaise, banal, beau, bizarre, bon, bouleversant, benefique, bete, capital, cauchemardesque, chaud, cher, chiant, chouette, chronophage, comique, commode, complexe, complique, con, confortable, contraignant, cool, coriace, coton, couteux, crucial, cruel, cuisant, curieux, dangereux, difficile, different, dingue, distrayant, douloureux, doux, drole, dur, degoutant, degueulasse, delicat, delicieux, delirant, dement, deplaisant, derangeant, deroutant, desagreable, desirable, desolant, economique, effrayant, effroyable, elementaire, embarrassant, empoisonnant, encombrant, enervant, ennuyant,ennuyeux, enorme, epouvantable, eprouvant, epuisant, ereintant, essentiel, etonnant, etrange, evident, excellent, extraordinaire, fabuleux, facile,fascinant, fastidieux, fastoche, fatigant, flou, fondamental, formidable, fou, fragile, fun, gonflant, grand, grandiose, gratuit, grave, grisant, gros,genial, genant, hallucinant, hasardeux, haut, hideux, hilarant, honteux, horrible, hyperfacile, idiot, ideal, illicite, immediat, important, impossible,impressionnant, impropre, imperatif, inaudible, inconfortable, incroyable, indispensable, infect, infernal, infame, ininteressant, injuste, insoutenable,insupportable, intelligent, interminable, intolerable, intuitif, interessant, inutile, irritant, joli, jouissif, joyeux, judicieux, laborieux, laid, lassant, lent,long, louable, lourd, lourdingue, leger, magique, magnifique, majestueux, malaise, malcommode, malheureux, malin, marrant, mauvais, meilleur,merveilleux, mignon, moche, moindre, monstrueux, mortel, mechant, naze, net, nul, necessaire, obligatoire, obscene, palpitant, paradoxal,passionnant, pathetique, perplexe, personnel, pertinent, petit, physique, pitoyable, plaisant, polluant, possible, poussif, pratique, primordial,prioritaire, precieux, preferable, premature, penard, penible, perilleux, raide, raisonnable, rapide, rare, ravissant, redoutable, reposant, ridicules,rigolo, risque, rude, realiste, rejouissant, sain, salubre, savoureux, siderant, simple, simplissime, somptueux, souple, spectaculaire, splendide,stressant, subjugant, sublime, suffisant, super, superbe, surprenant, sympa, sympathique, sympatoche, tendre, terrible, terrifiant, toxique, triste,trivial, troublant, ultra-facile, ultra-simple, ultrarapide, urgent, utile, vexant, vital, vulgaire*結構な数がありますね。*英語と似た様な語が利用されていることが分かります。 |
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Tough 構文に類似するものにはどの様なものがあるのか? その1*tough 構文に一見似ているが異なるものには、 pretty 構文や too...to 構文や enough...to 構文があります。*毒を喰らわばではありませんが、この際!ですから順に検討して行きましょう*下記論文に詳述されています:Lasnik, Howard; Fiengo, Robert (1974). "Complement Object Deletion". Linguistic Inquiry. 5 (4): 535-571. JSTOR 4177842https://www.jstor.org/stable/4177842?seq=1pretty 構文These pictures are pretty to look at.これらの写真は見るには綺麗だ。*一見 tough 構文と同じ構造を取りますが、以下の様には書き換え出来ず、これで容易に判別可能です。×It is pretty to look at these pictures.×To look at these pictures is pretty.*<これらの写真は見るには綺麗>なのであって、<これらの写真を見ることが綺麗>なのではありません。*to 不定詞が、<その動作を行うならば、行う時には、〜する分には>、の意味の副詞として機能していることが分かります。These pictures are pretty when/if looked at.These pictures are pretty when/if you look at them.*写真は目で見るものゆえ、後ろの to look at は冗語であって意味を持たないと考える者が居て当然です。*しかし<綺麗な見た目でいいね。>の他に、例えば下記の様な含意を持つ場合もあり得ます。*この様なウラの暗い感情を伴い得るのはひょっとすると英米人の性格特性とも言えるのかも知れません・・・。These pictures are pretty at first glance. However, on closer inspection, they are not so.これらの写真は一見すると綺麗だ。しかし良く見るとそうでもない。(ヒネた感情)同様に、That food is delicious to eat.あの食べ物は食べるとおいしい。(<素直な>気持)→That food looks tasteless, but when you try it, it tastes good.あの食べ物は如何にも不味そうだが食べてみるとおいしい。(ヒネた感情)この様に深掘り出来なくもありません。*意味するところにオモテとウラの二重性、曖昧性を持つ可能性がありますね。他の例文としてはThat flower is fragrant to smell.その花は香りがよい。That music is melodious to listen to.あの音楽は聴くとメロディアスだ。This room is a pigsty to behold.この部屋は見るに耐えない豚小屋だ。cf. behold = to seeNureyev is a marvel to watch.ヌレエフは見ていて驚嘆する。*お気づきかと思いますが、以上全て5感についての記述になります。それ以外の例としては、This problem is a hornets' nest to deal with.この問題に手を出すと面倒な事になる。cf. a hornets' nest = something which causes a lot of argument or troubleMary is graceful to dance with.メアリーは一緒に踊るには優雅だ。*上記いずれも、(形容詞 or 名詞)+(それらの語句との組み合わせから常識的に外れない語)、のパターンしか取れません。*まぁ、表現の幅は tough 構文に比してずっと狭くなりますね。*単純な文章を作るのがせいぜいで、文法学者がこんな表現も実は可能だったと、長くて複雑な文例を挙げたりもしますが、塾長が数十年英語を学んでいて斯かる類いの用例を一度も目にしたことが無いのが実際のところです。*前回にも述べましたが、自身の考えを明快に、他からの誤解無きように伝達する場である学術論文などでは、tough 構文は元より、pretty 構文など使う事はあり得ません。*pretty 構文の to 不定詞句は添えものか?*下記、南 佑亮氏は、後ろにある to 不定詞句が単なる添え物的存在では無く、それどころが生産性の基軸とさえ成り得ることを主張しています。https://www.jstage.jst.go.jp/article/elsjp/81/0/81_KJ00006944286/_article/-char/ja/https://www.jstage.jst.go.jp/article/elsjp/81/0/81_KJ00006944286/_pdf/-char/ja"Pretty構文"再考 : to不定詞句は「余剰」か?(日本英文学会第76回大会報告)南 佑亮 (大阪大学大学院) 英文学研究 81 巻 (2005) p. 254-DOI https://doi.org/10.20759/elsjp.81.0_254_1「従来、 [NP be ADJ to VP ]という形式 を持つ Pretty 構文 (Mary is pretty to look at. など)の意味については河野 (1984)、Asakawa Miyakoshi(1996)、篠原 (1993)、坂 本(2002)等 において述語の形容詞 を中心に議論がな されてきたが 、一方で to 不定詞句の方は省略可能で 「余剰 」なものである とみなされる傾向にあった 。本発表はまずこれに対する種々の反例を提示し、アフォーダンス 理論の考えを参 照 しつつ 、to 不定詞句の動詞も視野に入れながら 、シンプルな文例 を越えた広いレベルで当該構文の諸現象にアプロ ーチする必要性を主張 した 。 さらに用法基盤モデル(Usage Based Mode1 )の観点から 、[NP be ADJ .to look at ]という、動詞スロットが指定された構文スキーマが独自の意味単位を構成 し高い生産性を持っているという事実を指摘 し 、いわゆる Pretty 構文においては to 不定詞句 が余剰どころか生産性の基軸となり得るものでさえあることを主張した。」*この学会報告の先を知らないのですが、塾長が上に触れた様に、ウラの感情を伴い得、<含み>の気持が等閑視し得ないシーンは確かに有りそうですね。*そうでも無ければ、一見無駄言葉の、分かり切った to 不定詞の文言をわざわざ添えるまでも無い筈です。*使い道があるからこそ to 不定詞の文言を添えるのでは無いでしょうか? |
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